はじめに
2022年11月のChatGPTリリース以来、チャットAIは私たちの社会や暮らしを目まぐるしく変え続けています。しかし最近では、チャット相手にとどまらない生成AIが注目を集めています。それが、自律的にタスクを実行することのできる「AIエージェント」です。
言葉を生成するだけでなく、それに基づいて行為することもできるAIエージェントは、私たちの働き方を根本的に変える可能性があります。この記事では、そんなAIエージェントの基本事項や具体的な使い方を解説していきます。
本記事は、2026年6月14日に行われた東京大学メタバース工学部ジュニア講座「AIエージェント入門」をもとに執筆しています。講座の動画は下記リンクからご視聴いただけます。
https://www.meta-school.t.u-tokyo.ac.jp/junior/26sai/
目次
- はじめに
- 目次
- そもそも「エージェント」とは
- AIエージェントの特徴
- AIエージェントの性能
- AIエージェントの使い方
- AIエージェントができることと注意点
- できること
- 注意点
- 具体的な使い方
- ① Claude Cowork(有料)
- ② ChatGPT Work(無料)
- ③ Codex(一部無料)
- 使ってみた感想
そもそも「エージェント」とは
ChatGPTやGeminiなどのチャットAIは「言葉でのやりとり(チャット)ができるAI」ですが、AIエージェントの方は一体どのようなAIなのでしょうか。
「エージェント」の定義はいくつかありますが、ここではそのうち3つを紹介します。
まずはアカデミアの知見からです。コンピュータ科学者のラッセルとノーヴィグは、エージェントを「環境を知覚し、環境に対して行為するもの」と定義しています(Russell & Norvig 1995)。
次にAIエージェントを開発している企業による定義を見てみると、OpenAIは「ユーザーに代わって自律的にタスクを実行するシステム」として、Anthropicは「大規模言語モデル(LLM)が自らのプロセスやツールの使用を動的に制御し、タスクの遂行方法を自ら管理するシステム」としてそれぞれ定義しています。
このようにエージェントをめぐっては複数の定義がありますが、イメージを掴むうえではOpenAIによる「ユーザーに代わって自律的にタスクを実行するシステム」という定義がわかりやすいかもしれません。
参考文献・参照ページ
- Russell, Stuart J., and Norvig, Peter. (1995) Artificial Intelligence: A Modern Approach. Englewood Cliffs, N.J.: Prentice Hall
- https://cdn.openai.com/business-guides-and-resources/a-practical-guide-to-building-agents.pdf
- https://www.anthropic.com/engineering/building-effective-agents
AIエージェントの特徴
続いてAIエージェントの特徴を5つ取り上げます。
- 環境に直接アクセスして操作できる
ChatGPTなどのチャットAIはあくまでブラウザ上やアプリ上での言葉のやりとりが中心であったのに対し、AIエージェントはフォルダに直接アクセスしてファイルの作成や編集ができます。
- 自律的に計画を立てて実行できる
ユーザーが指示した抽象的な目標を詳細なタスクに分解して実行することができます。例えばユーザーが「ログイン画面にGoogle認証を追加して」と指示すると、AIエージェントはこれを「現状のコードを読む」→「必要なライブラリを追加する」→「UIを修正する」のように具体的なタスクに分けて実行に移します。
- エラーを自力で修正することができる(フィードバックループ)
あるプログラムを実行してエラーが発生したとしても、エラーログ(エラーが起きたときの記録)を分析してコードを修正し、再び実行するというループを繰り返すことで自力でエラーに対処することができます。
- 大規模なコンテキストを理解できる
数千行のコードを把握し、ファイル間の依存関係を理解して全体としての一貫性を保つことができます。「大量の文章を構造的に把握するのが得意」というイメージです。
- 人間と協調する(Human-in-the-Loop:ヒューマン・イン・ザ・ループ)
曖昧な点を質問し、重要な操作の前には人間に承認を求めます。例えばAIエージェントを使って英単語学習アプリを開発しているとき、アプリをデプロイする(開発環境からユーザーが実際に使える状態に移す)タイミングで問題がないか確認を求めてきます。
AIエージェントの性能
ここでは、「AIエージェントがどれくらい持続してタスクを実行できるか」という観点での性能を紹介します。
驚くべきことに、Anthropicが開発したモデルであるClaude Mythos(ミュトス)は、人間なら16時間以上かかるタスクを自律・持続して実行できるとされています。
(出典:https://metr.org/blog/2025-03-19-measuring-ai-ability-to-complete-long-tasks/)
ただし簡単な問題で間違えることもあるため、出力を批判的に見る姿勢は依然として重要です。
AIエージェントの使い方
AIエージェントを使うには大きく分けて二つの方法があります。
一つ目は、Claude Coworkのようなアプリを通じて使う方法です。
マウスなどを使う身体的な操作で指示出しするため直観的に操作しやすく、導入も簡単だというメリットがあります。
二つ目はコマンドラインを通じて使う方法です。
こちらはマウスを使わずにテキストのみで指示出しするため慣れるまでは難しく感じる可能性がありますが、権限や環境を細かく制御できるというメリットがあります。プログラム開発との相性が良い方法です。
本記事では、後段の「具体的な使い方」でアプリを通じて使う方法を3つ紹介します。
AIエージェントができることと注意点
できること
以下、AIエージェントが実行できるタスクの具体例を紹介します。
- 複数ファイルの要約
- ファイルの柔軟な一括リネーム
- Web情報の収集と比較表作成(例:都道府県別の宿泊者数)
- 学習クイズアプリを作る
AIエージェントはフォルダに直接アクセスしてファイルを作成・編集できるため、これまで人間が行なっていたタスクの計画から実行までを担うことができます。人間はプロセスを承認したり出力に責任を負ったりする形で関わることになるでしょう。
注意点
AIエージェントを使ううえでの注意点も確認しておきましょう。
- 利用には年齢制限がある(Codex: 13歳以上、Claude: 18歳以上)
- 権限を与えすぎると意図しない動作を行ってしまうことがある
- 悪意ある外部コンテンツが乗っ取る可能性がある(外部情報を読ませて、そのまま操作させる)
- 機密情報が漏えいする恐れがある
- 出力を信じすぎない(ハルシネーション)
年齢制限や機密情報の取り扱い、ハルシネーションに関してはチャットAIに引き続き注意が必要なところです。
悪意あるコンテンツによる乗っ取りや意図しない動作への注意は、AIエージェントが登場したことで高まったリスクと言えます。人間の手間が削減できるところにはリスクが入り込む余地もあることを理解して、適切に有効活用していきましょう。
具体的な使い方
「AIエージェントの使い方」では、アプリを使う方法とコマンドラインを使う方法の二つがあることを紹介しました。本記事ではそのうちアプリを使う方法について、Claude Cowork, ChatGPT Work, Codexの例を説明します。
① Claude Cowork(有料)
Claude CoworkはAnthropicが提供しているAIエージェントで、ユーザに代わってマルチステップのタスクを実行することができます。
今回は、Claude Coworkを使って複数ファイルを要約するタスクを行ってみましょう。
なお、Claude Coworkを使うには有料プラン(Pro、Max、Team、Enterprise)ユーザーである必要があるためご注意ください(2026年7月現在)。
- Claudeのデスクトップアプリを起動する
※こちらのページからアプリをダウンロードすることができます
- プロンプト入力欄の下部でCoworkのモードを選択する
- AIエージェントにアクセスしてもらうフォルダを指定する
- モデルを選択する
- プロンプトを入力する
今回は例として、高校世界史の教員が世界史探究の授業で昨年度の一学期間に取り上げた内容の要約ファイルを作成するタスクを行なっていきます。
AIエージェントにアクセスしてもらうフォルダは以下のような構造になっています。
例えばフランス革命についてのプリントは以下のようなものです(内容の正確性を保証するものではありませんので、あらかじめご了承ください)。
- 「タスクを実行」をクリックして完了を待つ
※タスク実行中の様子
要約ができあがり、指定したフォルダに保存してくれました。
作ってもらった要約をpdf化したものをこちらからご覧ください↓
このように、AIエージェントは複数のフォルダにまたがるファイルを参照し、分析するタスクを実行することができます。
なお、今回は
- 各授業ごとに詳しくまとめる
- 要約だけでなく分析も加える
ようにお願いしていたため分厚い内容になっていますが、アウトプットの分量や粒度に関しては、プロンプトで指定したりプロセスで承認・拒否したりすることによって調整できます。
② ChatGPT Work(無料)
ChatGPT WorkはOpenAIが提供しているAIエージェントで、ユーザに代わってマルチステップのタスクを実行することができます。
ここではChatGPT Workを使ってファイルの一括リネームを行う例を紹介します。
具体的な場面として、ある大学教員が「生成AI入門」というコースを担当しているとします。全13回に渡る一学期分の講義資料をPower Pointで作成したのですが、各資料のファイル名には明確な規則がなく、管理しにくい状態です。現状のファイルは以下のようになっています。
そこで今回は、AIエージェントを使って13個のファイルを一括リネームしてみましょう。
- ChatGPT のデスクトップアプリを起動する
※こちらのページからアプリをダウンロードすることができます
- 画面上部のタブを Work に切り替える
- プロジェクトを選択・作成する
- プロンプトを入力・送信してタスクの完了を待つ
数十秒待つと、指示通りにリネームしてくれました。
講義回数の順に表示されるとさらに見やすくなるため、再びChatGPT Workを使って番号の表記を「1→ 01」のように一括変更したうえで、ファイルの表示順を名前順に変更しました。
③ Codex(一部無料)
Codex は OpenAI が提供しているAIエージェントで、ソフトウェア開発などの技術的な作業に特化しています。使用上限などの制限つきですが、無料プランでも利用可能です(2026年7月現在)。
ここではCodexを使って授業で学んだ内容の確認クイズができるWebアプリを作ってみたいと思います。
- ChatGPT のデスクトップアプリを起動する
※こちらのページからアプリをダウンロードすることができます
- 画面左上で Codex を選択する
- プロジェクトを選択・作成する
- プロンプトを入力・送信してタスクの完了を待つ
今回は例として、中学1年生理科の「被子植物の仲間分け」の授業を題材とし、授業後に確認クイズができるWebアプリを作っていきます。
AIエージェントにアクセスしてもらうフォルダには、あらかじめ授業案のWordファイルと投影資料のPowerPointファイルが入っており、AIエージェントにはそれに基づいてWebアプリを作ってもらいます。
それぞれのファイルをpdfに変換したものは以下の通りです(内容の正確性を保証するものではありませんので、あらかじめご了承ください)。
そして出来上がったWebアプリがこちらです。
さらにやりとりを重ねることで、表示や挙動を改善したり、生徒向けに公開できる状態にしたりすることができます。
使ってみた感想
今回AIエージェントを実際に使ってみて、二つの可能性を感じました。
一つ目は、校務を効率化できることです。
AIエージェントは「エージェント」であるため、人間の代わりにタスクを実行してもらう使い方が基本になります。そのため、まずは学習場面よりも校務での利活用が主流になるのではないかと考えています。
ChatGPT Workの例で紹介したファイルのリネームのほかにも、情報収集やデータの転記など、本質的ではないがやらなければならないタスクをAIエージェントに実行してもらうことで、先生方の働く環境の改善につながるのではないかと思いました。
私が普段、学校の先生方や教育関係の職員の方々とお話ししているなかで感じるのは、生成AIのようなツールを導入することを目的とするのではなく、常にその先にある教育の質の向上を考えていらっしゃるということです。そしてそのような姿に勇気づけられています。
AIエージェントを活用することで生まれた時間を何に使いたいのか、何を効率化して何に時間をかけたいのかを考えることが今後ますます重要になってきそうです。
二つ目は、専門家だけでなく一人ひとりがデジタルツールを開発できるということです。
Codexの使い方の紹介では簡易的なWebアプリを作成しましたが、このようなデジタルツールの開発を、今や日本語でのやりとりと直観的な操作のみで行える時代です。
カラフルな見た目や音が鳴る仕掛けなど、デジタルツールを使うことで学習はより楽しく、ワクワクする体験に変わります。
注意点を踏まえつつ、一人ひとりの先生がデジタルツールの開発・活用にトライしてくださったら嬉しく思います!