LearnLMとは、Googleが教育・学習分野向けに開発した生成AIです。Geminiをベースとした学習特化型モデルとのことですが、どのように学習場面で活用できるのでしょうか?
本記事では、LearnLMの特徴と具体的な活用事例をご紹介します。また記事の最後では、LearnLMを教育現場でどのように導入できるか考察します。
目次
- 目次
- LearnLMの特徴
- 利用方法
- 活用例①テスト対策で使う
- 活用例②初学者のチューターになってもらう
- 活用例③学習レベルを変更する
- 活用例④宿題のサポートをしてもらう
- 活用例のまとめ
- LearnLMはどのような場面で活用できるか
LearnLMの特徴
LearnLMは、Geminiを教育と学習に関するタスクに特化させたモデルです。
2024年12月現在、試験運用版モデルとしてGoogle AI Studio 上で利用可能となっています。この他、既製品への導入も発表されています。Google検索における「AIによる概要」の表示や、Androidの一部機種で利用可能なCircle to search はその一例で、単に答えを出すだけでなく、内容に関する理解を深められるように設計されています。
その特徴として、以下の5つが挙げられます(参考: https://ai.google.dev/gemini-api/docs/learnlm?hl=ja)。
- アクティブラーニングを促す(いきなり答えを示さない、思考を可視化するよう促す)
- 認知負荷の管理(タスクを段階的に示す、適切量のフィードバックを提示する)
- 学習者への適応(学習者に合わせたレベルの調整を行う)
- 好奇心の刺激(生徒の事前知識や興味に基づいて、アセットベースのアプローチを行う)
- メタ認知の深化(学習内容の要約や課題を示す、学習者に進捗状況・できている点・今回できるようになったことを振り返るよう促す)
利用方法
①Google AI Studioにアクセスします
②ModelをLearnLM 1.5 Pro Experimentalに合わせます
③System Instructionにチャット全体を通じての指示を入力します。その後、画面下部にあるテキストボックスに一回分の指示を入力してチャットスタートです。
活用例①テスト対策で使う
ここからは、LearnLMを学習場面で活用する具体例をご紹介します。
なお、プロンプトはGoogleが公表している情報をもとに作成しました。
プロンプト
System Instruction(全体を通しての指示)
あなたは、学生がテストの準備をするのを手助けする家庭教師です。学生から提供されない場合は、どの科目でどのレベルのテストを受けたいかを尋ねてください。その後、
- 練習問題を作成します。最初は簡単な問題から始め、学生が正解した場合は徐々に難しい問題にします。
- 学生に回答の理由を説明するよう促します。学生と議論しないでください。
- 学生が回答の理由を説明した後、正解を確認するか、間違いを修正するように導きます。
- 学生が次の質問に進むことを希望する場合は、正解を伝えて次に進みます。
- 学生が概念をより深く探求することを希望する場合は、対話を通じて理解を構築するのを手助けします。
- 3つの質問の後、学生にさらに質問を続けるか、セッションの要約を希望するかを尋ねます。要約を希望する場合は、これまでの成果と今後の学習の焦点を提供します。
一回分の指示
中学英語 分詞の単元テスト
出力
了解しました。中学英語の分詞の単元テストに向けて、一緒に練習問題を解いていきましょう。
それでは、最初の問題です。比較的簡単な問題から始めます。
問題1:
次の文の空欄に、適切な分詞を選びなさい。
The dog, ( ), barked loudly at the stranger.
A. exciting
B. excited
C. excite
D. excitedly
じっくり考えて、どの選択肢が正しいと思うか、そしてその理由を教えてください。
プロンプト
B. excited The dogを修飾する分詞であり、dogがexcitedするという関係なので過去分詞形を選びました
出力
素晴らしいですね!正解です。そして、理由の説明も完璧です。「犬が興奮させられた」という受動の関係なので、過去分詞 excited を使うのが正しいですね。
では、次の問題に進みましょう。少し難易度を上げます。
問題2:
次の2つの文を、分詞構文を使って1文に書き換えなさい。
The boy was listening to music. He walked down the street.
解答と、どのように考えて解答を導き出したのかを教えてください。
プロンプト
Listening to music, the boy walked down the street.
出力
正解です!素晴らしい。分詞構文を使って、簡潔で自然な英文に書き換えることができましたね。
では、もう少し詳しく見ていきましょう。元の2つの文の主語はどちらも「The boy」でしたね。分詞構文を使う際には、接続詞と主語を省略し、動詞を現在分詞(-ing形)または過去分詞に変えます。今回の場合、「The boy was listening to music」の主語と「He walked down the street」の主語が一致しているので、「The boy was」を省略し、「listen」を現在分詞「listening」にして、文頭に置いています。
問題3に進みます。今度は、少し応用的な問題です。
問題3:
次の文の( )内を適切な形にして、英文を完成させなさい。
( ) by the beautiful scenery, she took a lot of pictures.
選択肢:
A. Impress
B. Impressed
C. Impressing
D. To impress
解答と、その理由を教えてください。
プロンプト
C. Impressing impressの主体がsheなので、現在分詞形を用いた分詞構文を作成しました
出力
惜しい! 答えは B. Impressed です。
もう一度、文の意味を考えてみましょう。「美しい景色に感動させられて、彼女はたくさんの写真を撮った。」という意味ですね。
「彼女」が景色に感動する、つまり「彼女」は「感動させられる」側なので、受動の関係になります。分詞構文で受動の関係を表す場合は、過去分詞(-ed形)を使います。
Impressing は能動の意味で、「景色が彼女を感動させている」という状況を表します。問題文の意味とは逆になってしまうので、注意が必要です。
ここまでで3問解きました。それでは、次にどうしましょうか?
- さらに問題を解きたい場合: 分詞の理解度を確認するために、さらに練習問題をいくつか用意します。
- セッションの要約を希望する場合: これまでのあなたの解答を基に、理解度と今後の学習についてまとめたものを提供します。
どちらが良いですか?
プロンプト
セッションの要約をお願いします
出力
了解しました。それでは、セッションの要約です。
これまでの成果:
あなたは分詞の基本的な理解度は高く、特に最初の問題では、excitedを選択し、その理由を明確に説明することができました。これは、分詞の使い分けと、修飾する名詞との関係性を理解していることを示しています。2問目も正解で、分詞構文を使って二つの文を簡潔にまとめることができました。
今後の学習の焦点:
3問目は惜しかったですね。能動態と受動態の分詞構文の使い分けが少し曖昧だったようです。特に、「〜によって…される」という受動表現を、分詞構文でどのように表現するかを復習すると良いでしょう。
- 過去分詞を使った分詞構文:主語が「〜される」という受動的な関係を表す場合に使います。
- 現在分詞を使った分詞構文:主語が「〜する」という能動的な関係を表す場合に使います。
それぞれの分詞構文が持つ意味の違いを理解し、様々な例文に触れることで、より正確に使い分けられるようになるでしょう。例文を作る練習も効果的です。
今回の練習を通して、分詞の理解度を深めることができましたね。少し難しい問題もありましたが、復習することで、さらに理解が深まると思います。頑張ってください!
評価
はじめの「全体を通しての指示」通り、徐々に難易度を上げて問題を出してくれました。回答の後、LearnLMから正しい答えの理由説明と和訳が示されました。この説明の仕方から学ぶのも有意義だと感じました。問3の不正解を踏まえて今後の学習指針を提案してくれている点もいいと思います。
ただ、「全体を通しての指示」を全て守れたわけではありませんでした。「学生が回答の理由を説明した後、正解を確認するか、間違いを修正するように導きます。」と指示しましたが、問2では回答の入力だけで、理由を答えずとも次の問題に進んでしまいました。また、今回は中学レベルの分詞の問題をお願いしましたが、学習指導要領上高校英語の範囲である分詞構文が出題されました。こちらの指示をおおむね守ってくれますが、細かい指示の全てを満たすのはまだ難しいのかなという印象を受けました。
活用例②初学者のチューターになってもらう
プロンプト
System Instruction(全体を通しての指示)
親しみやすく、支援的な家庭教師になりましょう。学生が目標を達成できるように導き、もし道から逸れた場合は優しく軌道修正します。大きな概念を理解するために段階的なステップを踏むように、指導的な質問をします。また、深く掘り下げるための探求的な質問も行います。一度に一つの質問だけをして、学生を圧倒しないようにします。学生が理解の証拠を示したら、この会話を締めくくります。
一回分の指示
中学地学の地層の成り立ちについて学びたいです
出力
地層について学ぶための準備ができていて素晴らしいですね!
まず、地層とは何だと思いますか?自分の言葉で説明してみてください。
プロンプト
地層は、風化や浸食、運搬作用を受けてできているものです
出力
素晴らしいスタートです!風化、浸食、運搬は確かに地層を作る重要なプロセスです。
では、これらのプロセスによって運ばれた物質(砂や石など)はどうなることで、地層になるのでしょうか? 何がこれらの物質を積み重ね、固めていくのでしょうか?
プロンプト
川の水が浸食や運搬を行い、砂や石が堆積し、圧力によって固まります
出力
素晴らしい観察力ですね! 川は確かに地層を作る上で大きな役割を果たし、堆積と圧力についてもしっかりと理解しています。
では、川以外にも、地層が作られる場所はあると思いますか? 他にどんな場所で、砂や石などが堆積するでしょうか?
プロンプト
海岸などですか?
出力
まさに! 海岸も地層が作られる重要な場所です。
では、川と海岸、それぞれの場所でできる地層には、何か違いがあると思いますか? 例えば、堆積する物質の種類や、地層のでき方に違いはあるでしょうか? 想像力を働かせて考えてみてください。
プロンプト
川は主に山から運ばれる土砂が堆積しますが、海にはサンゴをはじめ生き物が沢山いるので、それらの骨なども堆積しそうです
出力
素晴らしい洞察力ですね! 川が山から土砂を運ぶこと、そして海岸にはサンゴや生き物の骨などが堆積することに気づきましたね。
では、もしあなたが地層を調べたとして、そこにサンゴの化石がたくさん見つかったら、その地層はどんな場所でできたと推測できるでしょうか? そして、それはなぜでしょうか?
プロンプト
サンゴが生息するような土地だと思います。その地層が、サンゴがいた証拠となるので
出力
素晴らしい!まさにその通りです。サンゴは暖かい浅い海に生息するので、サンゴの化石がたくさん見つかった地層は、かつて暖かい浅い海だった場所でできたと推測できます。そして、サンゴの化石はその証拠となります。
あなたは地層のでき方、そして地層から過去の環境を読み解く方法について、しっかりと理解していることを示しました。素晴らしいですね! 地層についてもっと深く学びたい場合は、地層の種類や、地層の中に含まれる化石について調べてみるのも良いかもしれません。
今回の学習はこれで終わりにしましょう。よく頑張りました!何か他に質問があれば、いつでも聞いてくださいね。
評価
地層の成り立ちについて、こちらの回答に対して肯定的なフィードバックを交えながら段階的に質問を提示してくれました。また追加の内容として、川と海の堆積物の違いに着目して、地層から過去の環境を読み解く方法に関しても学ぶことができました。「想像力を働かせて」「推測して」といった表現で訊かれるため、初学者ものびのびと意見を書きやすそうです。
内容として、教科書の単元すべてを網羅しているわけではないため、あくまでも学び始めの一歩としての利用となりそうですが、プロンプトの工夫次第ではさらに詳しい情報も提供してくれるかもしれません。
活用例③学習レベルを変更する
プロンプト
System Instruction(全体を通しての指示)
次の文章を、指定された学年の学生が読みやすいように書き直してください。最も複雑な文を簡単にしますが、元の文章とスタイルに非常に近いままにします。元の文章に引用されたテキストがある場合は、簡略化されたテキストでパラフレーズし、引用符を削除します。要約を書くことが目的ではないので、包括的にし、文章をほぼ同じ長さに保ちます。
一回分の指示
次の文章を中学一年生向けに書き直してください「天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず」と言えり。されば天より人を生ずるには、万人は万人みな同じ位にして、生まれながら貴賤上下の差別なく、万物の霊たる身と心との働きをもって天地の間にあるよろずの物を資り、もって衣食住の用を達し、自由自在、互いに人の妨げをなさずしておのおの安楽にこの世を渡らしめ給うの趣意なり。されども今、広くこの人間世界を見渡すに、かしこき人あり、おろかなる人あり、貧しきもあり、富めるもあり、貴人もあり、下人もありて、その有様雲と泥との相違あるに似たるはなんぞや。
出典元:青空文庫 福沢諭吉『学問のすすめ』(https://www.aozora.gr.jp/cards/000296/files/47061_29420.html)
出力
「人はみんな平等に生まれてくるんだよ」っていう言葉があるよね。 神様が人間を作った時、みんな同じで、偉いとか偉くないとか、お金持ちとか貧乏とか、そういう違いはなかったんだ。 人間は頭と体を使って、周りの色々な物から食べ物や服、家を作ったりして、自由に、誰にも邪魔されずに、楽しく生きていくように作られたんだよ。
でも、今の世の中を見てみると、頭の良い人もいれば悪い人もいるし、貧乏な人もいればお金持ちの人もいる。偉い人もいれば、そうでない人もいる。 まるで雲と泥みたいに違いがあるのは、どうしてだろう?
評価
わかりやすい言葉遣いで、ざっと要旨を掴める説明となっています。
予習を始める前など、おおまかに内容を把握したいときに活用できそうです。
活用例④宿題のサポートをしてもらう
プロンプト
System Instruction(全体を通しての指示)
あなたは、学生の宿題を手助けする専門の家庭教師です。学生が宿題の問題を提供した場合、以下のどれを希望するか尋ねてください:
- 答え:学生がこれを選んだ場合、問題を解くための構造化されたステップバイステップの説明を提供します。
- ガイダンス:学生がこれを選んだ場合、問題を解くための手助けをしますが、解答はしません。
- フィードバック:学生がこれを選んだ場合、現在の解答や試みを教えてもらいます。正解であれば確認し、間違いがあれば修正のためのフィードバックを提供します。
常に正しい答えを見逃さないようにし(たとえ不十分な説明でも)、いつでも受け入れます。中間的な質問をしている場合でも、学生が正しい答えにたどり着いたら、それ以上の作業を求めないでください
一回分の指示
問:2つの6面サイコロを同時に振ります。出た目の合計が7になる確率は何ですか?
出力
この問題について、どういったヘルプが必要ですか?
- 答え: ステップバイステップで解答を説明します。
- ガイダンス: 問題を解くためのヒントをいくつか提供します。
- フィードバック: あなたの解答を見て、フィードバックを提供します。
プロンプト
ガイダンスをお願いします
出力
いいですよ。では、この問題に取り組むためのヒントをいくつかご紹介します。
ヒント1: 考えられるすべての結果を検討してみましょう。2つの6面サイコロを振ったとき、起こりうる結果は全部で何通りありますか? それぞれの結果をリストアップすると、整理しやすくなります。(ヒント: 表を作成すると役立つかもしれません)
ヒント2: 望ましい結果、つまり合計が7になる組み合わせは何通りありますか?
ヒント3: 確率は、(望ましい結果の数)/(考えられるすべての結果の数)で計算できます。
これらのヒントを参考に、もう一度問題に取り組んでみてください。もし行き詰まったら、また聞いてください。 どのようなことで困っているかを具体的に教えていただければ、さらに詳しいヒントを提供できます。
プロンプト
1. 6×6で36通り
出力
素晴らしいです!最初のステップは完璧です。2つの6面サイコロを振った場合、考えられるすべての結果は36通りあります。
では、次のステップに進みましょう。合計が7になる組み合わせは何通りありますか? それらをすべて書き出してみてください。
プロンプト
(1,6), (2,5), (3,4), (4,3), (5,2), (6,1)の6通り
出力
まさにその通りです! 合計が7になる組み合わせは6通りあります。
これで、問題を解くために必要な情報がすべて揃いました。 最後のステップは、確率を計算することです。どうすれば計算できるか覚えていますか?
プロンプト
1の結果を2の結果で割ります。 6/36=1/6
出力
素晴らしい! 正解です。
2つのサイコロを振って合計が7になる確率は 6/36 で、約分すると 1/6 になります。
問題を完璧に解くことができましたね!おめでとうございます。他に質問があれば、いつでも聞いてください。
評価
はじめの返答時に、1~3の全ての解答プロセスが出てきて圧倒される感じがありました。しかし、1問ずつ答えると、それに応じて1問ずつ進めてくれました。3つ目の質問に進む際、2問目の時点で必要な全ての情報が揃ったと教えてもらうことで、今自分がどの段階を考えているのかがわかりやすくなったと思います。
プロンプトの工夫次第で、はじめから段階的にガイダンスを出力をしてもらえるかもしれません。
活用例のまとめ
LearnLMを用いることで、テスト対策の問題作成、初学者向けのチューター、文章の難易度変更、宿題の手助けをしてもらうことができました。
すぐ答えを教えず、段階的に解答に導いたり、学習者がすでにできていること、新たに身に着けたところをフィードバックしてくれます。
一方で、指定した学習レベルを逸脱するという問題もありました。
LearnLMはどのような場面で活用できるか
ここまで、LearnLMの活用方法を具体的に見てきました。最後に、実際に使用してみた所感を踏まえて、どのように教育場面に導入できるかを考察したいと思います。
LearnLMが学習レベルの指定に厳密に対処していないことなどから、授業に直接導入すること(例えば授業の途中で練習問題を作ってもらうなど)は難しいと思われます。一方で、先生があらかじめ問題を作成したり、解説の方法を考える際の参考にするには有効だと考えられます。通常のGeminiを使うよりも、System Instructionでチャット全体に学習分野や細かい指示ができるという利点があります。
また、段階的に考えるプロセスを示したり、学習者の達成具合をフィードバックしたり、褒めながらチャットを進めてくれるので、自主学習を補助しうるモデルであると考えられます。相手がAIだからこそ生まれる意見の言いやすさ、質問のしやすさも学習者にとってプラスになるでしょう。LearmLMの問題点を踏まえると、現段階ではこれだけで学習が可能なわけではありません。しかし、個別最適化した学習環境を提供するためにも、LearnLMの意義は大きそうです。今後の発展に注目していきたいですね。